思い出のマーニー 感想と考察 20 (読書感想第6〜7章)

※以下、ジブリの新作アニメ「思い出のマーニー」のネタばれが含まれています!!※


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 このブログへのアクセス元は「Yahoo検索」が多いようなのですが、最近は「思い出のマーニー 感想 原作」といった原作の感想を求めるキーワードでの訪問が多いようです。中には「思い出のマーニー 読書感想文 書き方」という直球のキーワードでの訪問客もおられるようですが・・・もしかして夏休みの宿題の読書感想に「思い出のマーニー」を選んだのでしょうか(笑) 今頃きっと最後の追い込みですね。頑張ってください。


 一方でGoogleからの訪問客は少ないようです。ためしに「思い出のマーニー 感想」というキーワードで検索しても、このブログはランク外になります。どうやらGoogleからは「他のサイトと似たサイト」と判別されて検索結果から除外されているようです(涙)


Pity me! Oh ! Pity me!


 しかし、めげずに更新を続けて行きます!

第6章 「不細工な、でくのぼう」


 さてさて、この章ではついに我らのマーニーが登場します!といっても、窓の中で髪をとかしてもらっているのをアンナが目撃しただけですが。

 興奮してダッシュで家に帰るアンナ。しかし玄関ではペグおばさんとサンドラ(映画の信子)のお母さんが会話しているのでした。アンナは物陰に隠れて2人の会話を盗み聞きします。

 サンドラのお母さんは今晩遊びに来るように誘い、ペグおばさんは最初喜ぶものの「けど、あの子がいるから」と言って迷います。すると会話はアンナの話題となりサンドラのお母さんは次のようなことを言い出しました。


角川版 P53

「うちのサンドラは、友達になりたいと思っていたのよ。いちばんいいワンピースを来て、おまけに新品のペチコートをはいてさ。だけど帰って来てから言うのよ、『ママ、あたし、あんな不細工な、でくのぼう見たことない』--」


 おおっと、いきなり穏やかではありません!

 だけど、このサンドラのお母さんは映画版だと随分と大げさに話す人でしたね。大岩夫妻の所に文句を言いに来た時も「杏奈はカッターをチラつかせていた」とか言っていましたが、本当は湿地でスケッチしながら鉛筆を削っていた杏奈を信子が見かけただけでした。

 信子が泣きながら帰ってきたとも言っていましたが、それも恐らく信子が少し暗い顔で帰ってきたのを針小棒大に表現しただけではないでしょうか?
 
 もしかするとこの原作のサンドラのお母さんも少し大げさに話しているのでしょうか?サンドラが着ていた良い服も、サンドラの意志ではなくお母さんが着させたのかもしれません。それに「不細工なでくのぼう」だなんて、サンドラは言ってないのかもしれません。

 けれど、もし本当にサンドラが自分の意志で新しい良い服を着てきたのであれば、アンナから無視されたサンドラも少し可哀想ですよね。まあ、本当のところはわかりません。


 さてさて、ペグおばさんはこの発言を聞いてになったのか「あの子はこの上なくいい子」「今夜のお招きは遠慮する」と言って会話を打ち切ってしまいます。そして、この会話を聞いていたアンナは「今晩おばさんが出かけないのは私のせいだ」と自責の念にかられてしまうのでした。

 最初、あらゆることに腹を立て始めるアンナ。

  • サンドラは私を不細工なでくのぼうと言った!
  • やさしいペグおばさんは私を「この上なくいい子」だと言ってくれた!けど私のせいで遊びに行かないマヌケだ!
  • サムおじさん(ペグおばさんの夫)はテレビでつまらないボクシングなんて見ちゃって!
  • それにサンドラのお母さんときたら!!
  • ペグおばさんが出かけていればこんな後ろめたい気持ちにならずにすんだのに!!

 あ、いや、ペグおばさんは冤罪ですし、サムおじさんはもう完全にトバッチリですね(笑)

 けれど、もちろんアンナは自分に原因があることを知っています。

角川版 P56

 アンナは壁にかかった刺繍の額を見て、それにも腹を立てた。「よきものをつかめ」って言うけど、よきものなんてどこにもない。だいたい、これってどういう意味なんだろう。錨って、よきものなの? でもそんなものを持っていたところで、一日じゅう持ち歩くことなんてできやしない。それこそばかみたいだ。
 アンナは額をうらがえしにして、窓辺に歩みよった。床にひざまずいて、夕焼けに赤くそまった畑を見はらすと、みじめな気持ちが熱い涙になってほおを伝った。「よきもの」なんてどこにもないーーいちばんよくないのは、このわたしだ。

 なんでしょう。この「額をうらがえす」という仕草が少し可愛らしく感じられて、そのためかえってこの情景を悲しいものにしているような気がします。

 アンナが床にひざまずいているうちに、あたりは暗くなってきました。するとさっき湿地屋敷で見た「金髪の少女」のことが思い出されてきます。

 「あの子はきっとパーティーのおめかしをしていたんだ」「今頃はパーティーが始まっているはず!」どんどんと空想を広げていくアンナ。

 パーティーの様子があまりにクッキリと想像できるため、まるで自分の空想が本当の事のように思われてきたアンナはこっそりと家を抜けだして入江まで走りだしました。

 しかしもちろんあたりは真っ暗。 "タゲリ"という鳥の不吉な声だけが湿地に響きます。



 ぼうぜんと肩をおとして、トボトボ家に帰る、ちょっと危ない感じ可哀想なアンナなのでした。

第6章 「太ったブタ」


 昨日のことを後ろめたく思ったアンナは、ペグおばさんにお手伝いをしたいと言い出します。するとペグおばさんはアンナにアッケシソウを積んできてくれるようにお願いするのでした。
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 ちなみにこのアッケシソウ、『シーアスパラガス』とも呼ばれていて、高級食材のようですね。 日本では北海道の厚岸湖で最初に発見されたのでこの名前がついているそうですが、天然のものは2000年に絶滅危惧種に指定されており、収穫することは禁止されているので国産物が市場に出回ることはほぼ無いそうです。

 ネットで検索してみたところ、オランダでは100グラム3ユーロ(400円くらい)だそうで牛肉なんかよりもずっと高いです!生で食べると海水の味がするのだとか。

 アンナは黒いビニール袋が一杯なるまで積んだと描いてあるので、恐らく2キロくらいは収穫したのでしょうか?とすると…末端価格で60ユーロつまり日本円にして8000円くらいをゲットしたことになります!*1


 さてさて、昨晩の「パーティー妄想事件」がショックだったのか、入江でアッケシソウを取りながらも「湿地屋敷はふりかえりもしない」アンナ。

 ところで、映画の湿地屋敷は杏奈のいた岸辺の対岸にありましたが(一応大岩家とは地続きでしたが)、原作ではペグ夫妻の家と同じ岸辺にあるようです。つまり湿地屋敷を見ようと思ったら、一度入江を渡ってから"ふりかえる"必要があるのですね。

 ちなみに、こちらのURLに原作者が描いた地図の画像が貼ってありました。


 アッケシソウを積んだら、次は「ビン」と「お酢」を郵便局のミス・マンダーズさんの所に借りに行きます。でも、マンダーズさんは「うわさ話が大好き」なようで、この村の情報通。きっと既にアンナの話もサンドラのお母さんから吹き込まれていたのでしょう。「ひきつった笑顔」でアンナのことを迎えたのでした。

 するとそこにサンドラもやってきたのです!両雄、まさに一触激発の雰囲気。*2
 
角川版 P65

「わたしは挨拶しようとしただけでーー」アンナがつんとして言いかけると、サンドラがとちゅうでさえぎった。
「じゃあ言いなさいよ、ほら、早く言えばいいじゃん!」
「なんのこと?」
「好きなように悪口を言いなさいよ。あたしは気にしないから!どっちみち、あんたの見た目だってたかが知れてるんだから

 うーむ、原作ではサンドラの容姿について「色白でどっしりした体つき」「ひざはむっちりしている」と描写されていました。どうやらサンドラには自分の容姿に対するコンプレックスがあるようです。

 だからきっと、どうせアンナに悪口をいわれるだろうからと、先回りしてこういうセリフを吐いているのでしょうね。

 なんだかサンドラが少し可愛そうになる私。アンナはこのあとマーニーやリンジー家とのふれあいによって心が満たされて行くのですが、サンドラはこのあとどうなってしまうのでしょうか?

 「あんたの見た目だってたかが知れてる」というセリフからは、アンナの容姿がサンドラよりは良さそうなニュアンスが受け取れます。うーん、アンナはサンドラと比較して結構恵まれているとも言えるのではないでしょうか?

 しかしアンナも既に戦闘モード。そんなサンドラに対して

 「太ったブタ!」

と言い放つのでした。アンナちゃん、容赦ありません。

 けれど太ったブタサンドラも負けてはいません。「そんじゃあ、こちらも言わせてもらうからね!」とますますヒートアップ!

角川版 P66

あんたがどんなだか教えてあげる。あんたの見かけはね、あんたの見かけはーーただのあんたそのものよ。へっ!

 サンドラの言葉は、正直あまり悪口には聞こえません。けれどこの言葉が「自分が嫌い」なアンナの胸にはグサリと刺さります。

角川版 P66-67

どんな子かなんて自分がいちばん良くわかっている。みにくくて、まぬけで、短気で、ばかで、恩知らずで、礼儀しらず…だから、だれにも好かれない。でもそれをサンドラから言われたくなんかない!もう、絶対ゆるせない。

アンナは的確に自分を分析自虐的に自分を捉えているようです。しかし、アンナちゃん…サンドラは別にそんなこと言ってないのですが(笑)

 けれど、アンナにとって「自分は自分の通り」という言葉は、悪口に聞こえてしまうのですね。ちょっと切ないです。


 砂浜へ行き、鳥たちだけをお供に何も考えずにすごす孤独なアンナ。そんなアンナの頭上ではイソシギ

Pity me ! Oh ! Pity me !

と鳴き続けるのでした。


つづく

*1:でっていう

*2:女の子ですが・・