思い出のマーニーをふりかえる11

原作小説について調べようと思い、この雑誌を図書館で借りてきました。MOEは児童書に関する雑誌で、図書館でも児童書のコーナーに置かれていました。

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このMOEの2014年9月版に、思い出のマーニーのアニメ映画や原作に関する情報が巻頭から24ページにわたって大特集されています。


アニメ映画の情報も多かったですが、アニメ雑誌ではないので、原作に関する情報も豊富でした。


この雑誌に興味深い記事があったのですが、東京子ども図書館の評議員で大学の名誉教授でもある池田正孝という人物が思い出のマーニーの舞台を訪ねて「今から15年前」にバーナムオーバリーに行ったとのことです。


雑誌が出たのが2014年ですから、15年前というと1999年頃。さほど有名でもない物語の舞台を訪ねて遠くイギリスまで行く人もあまりいないでしょうから、もしかすると以前紹介したバーナムオーバリーに来た日本人というのは池田氏だったのかもしれません。


池田氏によると「アンナが滞在していた低い2階建てのメグさんの長屋や、ミス・マンダースの郵便局を見つけて写真に収めた」とのことです。


メグさんの長屋というのは初耳ですが、もしかするとペグさんの家のモデルになった場所があるのでしょうか?


ミス・マンダースの郵便局もそれらしき建物があるようですが、具体的にどこにあるのかまでは書いてませんでした。


Googleマップで探したのですが、もしかするとこの建物かもしれません。
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【岩波版(上)P33】

ゆうびん局はすぐに見つかりました。おどろいたことに、ゆうびん局というのは、ペグさんの家とおなじようなふつうの小さな田舎屋で、このあたりによくある丸い灰色の石を使って建ててあって、壁には、どこにでもあるような、郵便を入れる細い口のついた平べったいゆうびん箱がうめこんでありました。


十字路を曲がって直ぐの場所にある点、丸石を使って建っている点、平べったいポストが壁に埋め込んである点が、作中の文章と一致します。



そしてもう一つ、池田氏によると湿地屋敷のモデルっぽい建物が、例の赤レンガと青い窓の穀物倉庫以外にも見つかったようなのです。


その写真が以下のリンクにありました。
http://www.jidoubungaku.jp/


MOEの記事によると

【MOE 2014年 9月号 P24】
物語の中心となる、しめっ地屋敷も発見しました。でもこれは、作者がしめっ地やしきと考える"グラナリーやしき"と違っていて、ボート小屋の北の方にある、かつてはホテルだった建物でした。このやしきの裏側には、干潮の時、アンナのように靴を脱いでクリークを渡らねば近づけません。そして満潮時、私はアンナのようにボートにのって「壁に切り込んで作った階段」のそばまで辿りつくことができました。そのようなことで、私は、物語の中のしめっ地やしきは、これら2つのやしきを合成してできたものと考えております。


とのことです。


でも、ボート小屋の北には入江しかないので、恐らく西の間違いではないかと思います。具体的にはこのホテルのようです。
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Googleマップではホテルの近くまで近づけず、かろうじて屋根が見えるだけですが、上で紹介したURLの写真と屋根が一致するのでどうやらこのホテルで間違い無さそうです。

Googleマップで見たホテル
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このホテルが入江側から写っている写真を探したのですが、これくらいしか写真が見つかりませんでした。


ちょっと遠くて分かりづらいのですが、確かに堀を切り込んで作っている階段があるように思えます。


例の穀物倉庫の湿地屋敷は普通に歩いて近づけるので物語の描写とは食い違いを感じていたのですが、物語に登場する入江側の湿地屋敷の描写は確かにこのホテルをモデルにしているのかもしれませんね。ちなみに岩波文庫版の後書きに、物語の地理には作者の想像が付け加えられていると書いてありました。


他に、作者の長女であるデボラ・シェパード(Deborah Sheppard)さんの話としてこんな話がありました。
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【P22-23】
祖母はとても厳しい人で、母は愛に飢えた子どもでした。一度こんなことがあったそうです。遠くの寄宿学校に通っていた小学生時代、学期の終わりに、学校に誰も迎えに来ませんでした。遠い道のりを一人で戻ってみると、家のドアを開けたお手伝いさんが『どなたですか?』と言ったのだそう。祖母は、母の学期終わりを忘れていた上、お手伝いさんに母のことを話していなかったんです。なので『思い出のマーニー』の主人公アンナは、母そのもの。そんな幼少期を過ごしたので、母は、自分の家庭を持ったとき、『愛情あふれる家庭にする』という強い決意があったようです。実際、私たちは笑顔の絶えない仲良し家族でした。


作者の両親は2人とも弁護士で、しかも母親はケンブリッジ大学に入学を許可された初めての女性の中の一人だそうです。


尊敬すべき両親と、愛されなかった子供時代。私はこの話を読んで、作者の境遇はアンナよりもマーニーのほうに近いかもしれないなと思いました。


親元から離れていたという境遇は、マーニーの娘のエズミにも似ていますね。


また、先に紹介した池田氏によると、作者は毎夏に2人の娘を伴ってバーナム・オーバリーを訪れていましたが、下の娘は養女で、アンナのような境遇の子だったようです。


作者にアンナのような養女がいたという事は、もしかすると作者も養育費を受け取っていたのでしょうか?


アンナのことを愛して心配するあまり、かえってすれ違いを起こしてしまうプレストン婦人は、もしかすると作者自身なのかもしれません。


つまり作者は、アンナでもあり、マーニーでもあり、エズミでもあり、ミセス・プレストンでもあったのでしょう。


デボラさんは「これだけは伝えたいの」と、以下のように語っています。

【P24】
「主人公のアンナは悲しい少女だけれど、物語の中でアンナは誰のことも責めていません。自分の人生を受け入れて成長していくのです。母も同じでした。母は悲しかった少女時代を決して嘆かなかったし、祖父母のせいにしなかった。自分の人生を受け入れ、前に進むことこそ、母が言いたかったことなんです。」


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作者が思い出のマーニーを執筆したという、自宅の庭に建てられた小屋


他にもいろいろとマーニー情報が満載の特集でした。マーニー好きなら入手して損はありません。


つづく