アキレスと亀
アキレスと亀のパラドックスは、誰でも1度は聞いたことがあると思います。
先日なんとなくウェブを見ていて久々に目にしたのですが、改めて考えるとこれは凄く不思議ですよね。
アキレスの前方を亀が歩いており、アキレスは亀を走って追いかけます。
しかし亀がいた地点P1にアキレスが進むと、亀はわずかに進んだ地点P2に移動しています。
さらに亀がいた地点P2にアキレスが進んだときでも、ふたたび亀はわずかに進んだ地点P3に移動しています。
この考えは無限に繰り返すことができ、したがってアキレスは亀に追いつくことができません
自分はたしかこの話を、小学生か中学生のころに先生から聞いたような記憶があります。
その時、先生はこう説明してくれました。
これはアキレスが亀に追いつくまでの時間を無限に分割しているだけにすぎない。
たしかにそうです。
現実にはアキレスは亀に追いつけますし、追いつくまでの時間を無限に分割しているというのも間違っていないように思えます。
このパラドックスを考えたのは、古代ギリシャのゼノンさんだそうです。これでゼノンさんを論破できるでしょうか?
私「ねえねえゼノンさん。ゼノンさんが考えたパラドックスって、アキレスが亀に追いつくまでの時間を無限に分割しているだけじゃないの?」
でもゼノンさんはこう答えるかもしれません。
ゼノン「確かにそうかもしれないね。でもさ、アキレスがP1に来たときに亀がP2にいるのは確かだよね?だから追いつけないよ」
うーむ、ゼノンさんは納得してくれそうにありません。そこで私は計算を示してゼノンさんを納得させることにしました。
私「アキレスの速度を2m/秒、亀の速度を1m/秒として、亀はアキレスの2m前方にいると仮定するよ。すると2秒後にアキレスは亀に追いつく。だって2秒後にアキレスは4m進んで亀は2m進むから、二人の位置は同じになるよね? つまり 2 x 2 = 2 + (1 x 2) だよ。」
だけどやっぱりゼノンさんはこう答えます。
ゼノン「計算ではそうなるかもしれないね。でもさ、アキレスがP1に来たときに亀がP2にいるのは確かだよね?だから実際には追いつけないよ」
むむむ・・・ゼノンさんはあくまで認めようとはしないようです。
ついに私は、アキレスと亀を呼び出してゼノンさんの目の前で競争してもらいました。
私「ほらっ!見て見て!!今アキレスが亀に追いついたでしょ!!やっぱりアキレスは亀に追いつくよ!!」
でもゼノンさんはこう答えるかもしれません。
ゼノン「実は僕、目が見えないんだよ。とにかくさ、アキレスがP1に来たときに亀がP2にいるのは確かだよね?だから追いつけないよ もし追いつけるというのであるなら、変な数式とか使ったりしないでちゃんと論理的に説明してよ」
うがあああああっ!!!
思わず取り乱してしまいましたが、よくよく考えてみるとゼノンさんは嘘を言っているわけではありません。考えてみると確かにそうです。アキレスがP1に来たとき、亀はP2に進んでいる。これは正しいように思えます。否定しようがありません。
それをいくら「このパラドックスは時間を無限に分割しているだけだ!無限に分割するのだから無限なのは当たり前だ!」と言ったところで「そうかもしれないけどさ、でも結局アキレスは亀を抜けないじゃん(笑)」と言われたら、ぐうの音も出ません。
だから、ゼノンを論破したければ、アキレスが亀に追いつけないという議論から逃げずに、正面から彼を論破する必要があります。
もしアキレスが亀に追いつこうとするならば「亀が停止していて、アキレスだけが動く」という状況がなければいけません。
けれども、アキレスがP1に来たとき亀がP2に来ていて、アキレスがP2に来たとき亀はP3に来ていて・・・ということを無限に繰り返しても「亀が停止していて、アキレスだけが動く」という状況は永遠に発生しそうにありません。
じゃあアキレスは亀に追いつけないのかっ!?
いえいえ、そんなことは無いはずです。 さっき、私の目の前でアキレスは亀に追いつきました。
なんで追いつけんの!? 論理的に追いつけないはずなのに・・・・
そのとき、私の脳裏にジョースター卿の言葉が蘇りました。
ジョースター卿「なにジョジョ?無限に繰り返してもアキレスは亀に追いつけないだって?ジョジョ、それは「時空は無限に分割できる」と考えるからだよ。
逆に考えるんだ「時空を無限に分割することは、実はできない」と考えるんだ。
・・・なーるほど、もし時空の分割に限度があるのであれば、分割を繰り返せばいつかは「亀が停止していて、アキレスだけが動く」という状況に辿りつけるはずです。
それなら実際にアキレスが亀に追いつくことも説明できます。な~んだ「時空が無限に分割できない」ならば全てが解決するじゃないですか!!
実は、これは量子物理学とも合致することです。たとえば電子が原子核を回る軌道は特定の軌道だけです。電子はある軌道から別な軌道に移動できますが、その中間の中途半端な軌道には存在できません。
テニスボールを地面に落としたとき高さAに跳ね上がったとするならば、テニスボールは高さAに跳ね上がるまでの間は地面と高さAの中間の位置に存在したといえますが、電子ではそういうことはありません。地面から高さAに瞬間移動して、その中間の位置にいるということがありえません。
これは我々の日常感覚とはかけ離れたことですが科学者によると電子の軌道は飛び飛びで、なめらかに移動することが無いのです。
さっきのテニスボールも、地面から高さAに「なめらか」に移動したのではなく、魔法の顕微鏡をつかって極限に拡大して観察したら、極小の「段差」を「飛び飛び」に瞬間移動しているだけなのかもしれません。
だから空間を無限に分割できないというのは、物理学的にはひょっとすると正しいのではないでしょうか?
つまり、アキレスと亀は空間を飛び飛びに瞬間移動を繰り返して前進していたのです!!
めでたしめでたし
・・・うーむそれで本当に良いのでしょうか?
仮に時空を無限に分割できると仮定したならば、本当にアキレスは亀に追いつけないのでしょうか?
ところで、ゼノンさんは「アキレスと亀」以外にも、いくつかのパラドックスを考え出しています。
たとえば「飛んでいる矢は止まっている」というのも、やはり誰もが一度は聴いたことがある有名なパラドックスです。
瞬間においては矢は静止している。どの瞬間においてもそうである。という事は位置を変える瞬間はないのだから、矢は位置を変えることはなく、そこに静止したままである。
アキレスと亀は一旦置いておいて、このパラドックスは成り立つでしょうか?
私は、このパラドックスに関しては簡単にゼノンを論破できそうです。
瞬間とは、つまり「時間ゼロ」のことです。矢が10秒間飛ぶとして、その10秒の間に無数の瞬間を見出すことはできますが、その無数の「瞬間」を無限に合計したとしても元の10秒にはなりえません。ゼロを何倍にしてもやはりゼロです。
ですのでゼロの瞬間を合計すればあたかも元の10秒になるかのように聞くものを誤解させているところに、この論理の破綻があります。
わかりやすく別な例えをつかうと
ゼノン「ここに10kgの金塊がある。この金塊を輪切りにして厚さ0の断面を取り出したが、その断面の金の含有量は0である。どの断面にも金は含まれないのだから、この金塊の重さは0である!(キリッ)」
とゼノンさんは言っています。これならだまされる人はいないでしょう。
私「ゼロを何倍してもゼロにきまってんだろ!バーカバーカ」
と言えば、論破完了です。
また、別なパラドックスに「二分法」というのもあるようです。
ある地点からある地点に移動するときは、かならずその中間点を通る必要がある。そして中間点にたどりつくには、さらにそこに至るまでの別な中間点を通る必要がある。これは無限に繰り返されるので、有限の時間で全ての中間点を通ることはできない。したがって移動することはできない。
なるほど、確かに中間点は無限に存在するので移動は不可能なように思われます。
しかし、たとえば目の前の机の上を10cmほど指でスッとなぞってみてください。なぞれますよね?
その10cmの間には無限の中間点があるはずです。なのに指は無限にあるはずの中間点を全て触ってなぞりきることができます。これはなぜなのか?
指が1秒で10cmなぞったとすると、中間地点の5cmに到達するのに0.5秒必要です。逆にいうと0.5秒あれば5cmなぞることができるともいえます。
次の中間地点はそこから2.5cm先です。さらにその次の中間地点は1.25cm先です。これは無限に繰り返すことができるので、指は無限にある中間地点を全て通る必要があったはずです。どうしてあなたの指は、無限にあるはずの中間地点を全て通ることができたのでしょうか?
しかし、ちょっとまってください。
0.5秒あれば、5cmなぞることができるのです。0.25秒あれば、2.5cmなぞれます。つまり10cmの空間を無限に分割したとしても、それと1対1で対応する無限に分割した時間があれば全ての距離をなぞることができるのです。
だからいくらゼノンが
ゼノン「空間は無限に分割できるもんね。だから移動には終わりがないはずだもんね」
と言い張ったとしても
私「じゃあこっちだって時間を無限に分割して移動につかっちゃうもんね。10cmを5cmずつに分割したとしても、こっちは1秒を0.5秒ずつに分割して移動しちゃうもんね」
と言い返すことが出来ます。
ゼノンが負けじと「じゃあこっちはさらに2.5cmに分割しちゃうもんね!」と言い張ったとしても、私も「こっちだって時間を0.25秒ずつに分割して移動しちゃうもんね!」と言い張れます。
もし10cmをなぞりきることができないというのであれば、距離が残っているのに時間が足りないという状況が必要になります。
しかし、どんなに分割を繰り返しても、そういう状況は発生しそうにありません。無限に繰り返したとしても、やはり全て移動することが可能です。
完全にキレたゼノンが「でも分割は無限にできるんだよっ!終わりがないんだよっ!」と言い張ったとしても、私も「こっちだって時間を無限に分割できるし~。分割した距離と1対1で時間を対応させることができるし~。だいたいさぁ、そんなに移動が無理だって言うなら、どこまで分割すれば移動する時間が足りなくなるというのかちゃんと論理的に説明してよ!」と言えばよいだけです。
だから無限に分割できる10cmを無限に分割できる1秒間を使用することにより、全てなぞりきることができました。 論破完了です。
さて、ここで再びアキレスと亀に戻ります。
これまでにゼノンを論破して涙目にさせた方法を使用して、アキレスと亀を否定できるでしょうか?
・・・やっぱり難しいように思えます。
だって亀は常に前進しているから、いくらアキレスが前進しても亀だってわずかに前進しているはずだというのを否定できないからです。
亀を追い抜くには、亀を停止させてアキレスだけが前進できるという瞬間が必要になります!
さっきまでショゲていたゼノンさんも、にわかに息を吹き返しました
ゼノン「ふはははは!このパラドックスだけは解けまい!!どれだけ追いかけてもアキレスは亀に追いつけないっ!!勝ったッ!第3部完!!」
ここまで私が考えたとき、再びジョースター卿が私に囁きました。
「逆に考えるんだ!亀が停止しないと亀を追い越せないのであれば、亀を止めちゃえばいいさと考えるんだ!」
*1:え?